ダンマス記
〜サイドストーリー〜
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イライジャ 〜獅子の命は絶たれた〜 かつてヤイトピャの獅子と呼ばれ恐れられていたイライジャは、迷宮の最下層で最後の時を迎えた。 最初は目の焦点が合わなくなり、目の前にある千田マリの中に転がっているちぎれた腕――ほんの数分前まで自分の体の一部であった腕さえもがぼやけ、ぐらぐらと揺れている。 やがて己の感覚のすべてを支配していた痛みが和らぎ、体が軽くなる。そして次の瞬間彼は、値や吐しゃ物にまみれて床に横たわっている自分の死体を、眺めていた。不思議な感覚であった。重力の束縛から解き放たれたかのよう。 すでに肉体はイライジャという人間を構成する要素ではない。彼は精神のみの存在となったのである。ヤイトピャの獅子は新たな生を探して歩き始める。空へ。天空へ。 ヒッサー 〜気高く生きねばならぬ〜 ヒッサーも、迷宮の存在を疎ましく思っている一人だった。 彼の概観は人間のそれとは、大きく異なっている。瞳孔は楕円形をしており、真っ赤な舌は先は二つに分かれている。緑色の鱗に覆われた皮膚はぬめぬめと濡れていた。手足の5本の指には鋭い爪があり、どんなものでも紙細工よろしくすっぱりと裂いてしまうことだろう。 人間に魔物と呼び蔑まれているヒッサーであったが、迷宮に巣食っている魔物どもに対しての共感といったものは、まったく感じる事はなかった。憎悪に近い感情を抱いていた。 気高く生きねばならないものたちが、あのような素性のわからぬ男の使い走りになるとは。 やつらを叩き殺してやろうと思った。それが彼のせめてもの情けなのだ。 ウー・ツェ 〜神に仕えるもの〜 神に仕える者にすると、邪悪なる怪物どもの徘徊する迷宮は、忌み嫌うべきものである。 村で僧侶として神の教えを説いているウー・ツェにとっても、それは同様であった。 神の照らし給うた光の当らない暗闇に潜むものたち。それらは、この世界から排除しなくてはならない存在であり、それこそが人がやらなくてはならない使命なのではないか。 ウー・ツェにとって迷宮とは、神よりの与えられた使命を具体的に人々へ示し知らせるための場所であった。今日も彼女は迷宮へと降りる勇者を募り、邪悪なるものどもを討伐する使命を果たそうとしている。たとえここで命が尽きても、必ず私の意志を継ぐ者たちが現れるでしょう。その者こそが、平和をもたらす神の使途なのです。 ウーフ 〜命を奪い快楽を得る〜 人狼の一族であるウーフは、人間を殺すことによって至上の快楽を得ていた。 引き裂ける肉、砕ける骨、滴る血液。あの手ごたえを思い返すだけで、身体中が熱くなってくる。自分の手で一つの命をもみ消すことに、対する喜び。そして、肉と肉との間から湧き出る赤黒くどろりとした液体を身体中に浴びるのだ。 命の水で身体を濡らす。この瞬間ウーフは自分の命にさらなる力が漲ってくるのを感じるのだった。 俺は強くなっている、血を浴びるたびに俺は新たな生命を得ているのだ。 迷宮は彼にとって好ましからぬ存在だった。自分以外の者が人間を殺す事が気にくわなかった。人間を殺す権利を持っているのは俺のみだ。俺に無断で殺そうとする奴は、ぶっつぶしてやる。 →迷宮に戻る |