俺が待ち合わせ場所に着いた時には、もうすでに二人は着いていた。 Sの隣にいる子がおそらく妹だろう。Sとは長い付き合いだが見るのは初めてだった。 3人ともお昼がまだだったので、とりあえず昼食を取ることにした。 Sと二人なら、食べないかもしくは、牛丼屋などになるが、今回はちょっとちゃんとしたところに行くべきだろう。 しかし、なかなかいい店がなくて、結局ファミレスになってしまった。 ファミレスでこれからどうするか少し話しあった。 結局、俺とSの共通の趣味であるビリヤードになった。 その後、3人でビリヤードをしたり、喫茶店へ入ってまったりしたり、ゲームセンターへ行ったり、それなりに楽しい時間をすごした。 最後に皆で夕食を食べ、帰宅。夕食のお店はちょっと”ちゃんとした店”にした。 家について、シャワーを浴びてすぐに寝た。 少し疲れていたのかも知れない。 次の日、先輩に顔を合わせるのが少し億劫だったが、機嫌が直っていることを祈るしかない。 誤解さえ解ければすべてが元通りになるのだ。 そのきっかけさえあれば。 俺が部屋に入ったとき空気が一瞬氷ついたような気がした。 嫌な予感がする。まだ先輩の機嫌が直っていないのだろうか。 すぐ近くにいたHに声をかける。 『先輩の機嫌どう?』 振り向いたHは冷たい目をしていた。 『お前がそんな奴だとは思わなかった。』 俺は面食らった。答えになっていないし、そんな事を言われる覚えがなかったから。 『え? どうしたんだよ。急に』 『おとといのこと覚えていないのか!? ―――もういい。もう話しかけんな。』 そう言ってHは行ってしまった。 なんだってんだ。おとといの事? あのHの友達の女の子のことか? そんな非難されるようなことはしてないぞ!? 先輩だけじゃなくHもか厄介なことになった。 しばらく、放置するしかないな。 仕事が終わり、家に着いたときはくたくただった。 ソファーにどかりと腰を下ろし、タバコに火をつける。 タバコを吸いながら、少し今日の出来事を整理してみた。 しかし、俺に非は見当たらない。多少は相手の気を悪くさせるような事もあったかも知れないが、あそこまで怒らせるようなことは絶対にしていない。 俺は、あきらめたように煙をはいた。 色々考え事をしていて思い出したことが一つある。 昨日Sに週末の予定を聞かれて、今日改めて電話する事になっていた。 メールにしようかと思ったが、メール打つのが面倒だったので、電話する事にした。 時間もそれほど遅い時間ではない。 週末、俺はどこかへ出かける気分になっているだろうか。 具合が悪い事にしておこう。多分俺はへとへとに疲れているだろうから。 2・3回の呼び出し音の後、Sが出た。 『もしもし』 『おう。週末の件だけどさ』 『あぁ もういいよ。というかもう電話してくんな』 あまりに突然で俺は返答に困った。今日の朝の出来事がフラッシュバックする。 『お前にはもううんざりだ。じゃあな』 こちらに何も言わさずにSは電話を切ってしまった。 俺は、少しの間、呆然として携帯電話を見つめていた。 ッくそ! なんだってんだ!! 先輩といい、Hといい、Sといい。どいつもこいつも! ―――待てよ。どいつもこいつも? おいおい。冗談だろ? みんな似たような理由じゃないか。ドッキリだとしたら、たちが悪すぎるぜ。 思い出せ。これは偶然じゃない。おそらく何か原因があるはずだ。 何か。何か。何か。何か。 俺はうろうろと部屋を歩き回ったり、タバコを吸ってみたり、とにかく考えた。 そして、ふと目をとめた先にパソコンがあった。 ―――まさか! 俺は、先日の結婚支援サイトのことを思い出した。 たしかあれは日曜日。あの次の日にKに食事に誘われて、その次の日にHの友達。その次の日には・・・・・ まさかね。そんなことあるわけない。 ちょっと待てよ。 俺はあのサイトでアンケートに答えたりしたが、登録した覚えは一切ない。たしかに個人情報を打ち込んだりしたが、送信ボタンのようなものを押した覚えはないし、メールアドレスすら打ってないぞ! もし、あのサイトが原因なら今すぐにでも解約しなければ。あのサイトが原因とは考えにくいが、あのサイトはどうもおかしい。 俺は、パソコンを立ち上げ、すぐさまネットにつなぐ。 あのサイトがドコにあるのか忘れてしまったが、日曜日の履歴はまだ残っていて、俺は片っ端から開いてみた。 が、あのサイトは見つからなかった。 URLが変わったとかではない。閉鎖されたわけでもない。そもそも履歴に残っていないのだ。 俺は記憶を頼りに、あちこちのサイトを回った。あれはどこかのサイトに広告が出ていたはずだ。 ずいぶん長い時間サイトを巡ってみたが、結局見つける事は出来なかった。 俺は此処に来て確信した。原因はあのサイトだと。あのサイトのせいで職場の環境は悪化し、友人を失った。あのサイトのせいで・・・・ 俺は、眠ることなく朝を迎えた。 ふらつく体で俺は会社に向かった。 相変わらず俺の周りを取り巻く空気は冷たかった。 しばらくして、部長からお呼びがかかった。 別室に通され、ここ数日の職場環境の悪化について聞かれた。 というか、半ば怒られていたような感じだ。 こっちの言い分を聞こうとしない。 俺は嵐が過ぎるのをひたすら待つしかなかった。 俺がいいかげんうんざりしてきたころ、けたたましくドアが開き女の子が一人まろび入ってきた。 こいつは・・・・ この女は・・・・ 『お父さん! 柏木さんをあまりいじめないで!!』 受付で働いている部長の娘だった。 『お前がそういうなら仕方がない。 柏木。今回のことは不問にする』 何が仕方ないだ。 部長の娘は、良かったねという感じで微笑んでいる。 そして俺の腕に体を絡ませてきた。 もう終わりだ。 俺はいったいどこまで堕ちて行くのだろうか・・・・・ 終 |