狂気
俺は女に追われていた。 女の目は狂気に満ちぎらぎらしていた。 手には包丁が握られ、口元にかすかな笑みを浮かべ俺を追ってくる。 俺は必死に逃げた。 相手は女だその気になれば押さえつけることも可能だったと思う。 俺は、女の目から逃げていた。 その狂気に満ちた目はこの世のすべてのものが通用しないような気がした。 俺はすっかり恐怖のとりことなり、体が恐怖でうまく動かない。 俺は必死に逃げたのだけれど、とうとう追いつかれてしまった。 女と取っ組み合いになり、俺は女を殺した。 その時、俺の心がぶるぶると震え、その底から何かがふつふつと湧きおこってきた。 ああ、女の死体から噴き上げる血潮のなんと温かいことか 俺は女の死体を横目に捕らえながら歓喜の声をあげた。 そのときの俺の目はさぞかしぎらぎらとしていたことだろう。 そして俺は狂気の底へと堕ちてゆく・・・・ |